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える「古典部の日常」 3

285: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 20:58:03.48 ID:obKv5onk0

今日は卒業式、二年である俺達には関係無い事と思われるが……

俺はつい一週間程前に知ったのだが、どうやら二年生も参加しなければいけないらしい。

なんでも、次期最高学年として、とか。 三年生を一番知っているであろう君達に見送られ、とか。

そんな大層ご立派な理由があったからである。

勿論、それは今年から始まった事では無かった。

もっと言えば、つい一週間程前に決まった事でも無い。

ただ、俺が知らなかっただけだ。

そういう理由で、俺達二年生は学校へと来ている。


286: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 20:58:36.51 ID:obKv5onk0

里志「いやあ、いよいよ僕達も三年生か」

奉太郎「三年になったからと言って、何かある訳でも無いだろ」

里志「……もっとこうさ、何か思う事とかないのかい?」

奉太郎「無いな」

里志「はは、随分ときっぱり言う物だね」

……里志にはそう言ったが、俺にも少しくらい思う所はある。

しかしそれは三年生になるからでは無い。

……今日の事だ。


287: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 20:59:04.94 ID:obKv5onk0

千反田と少し前から計画していたある事の実行日だからである。

準備は全部終わっている、後はどう入須と話す機会を得るか、だ。

そこら辺を千反田は全く考えていなかった様で、仕方なく俺が入須に話しかける作戦を考える事になった。

える「おはようございます、今日はお二人とも早いですね」

噂をすればなんとやら、か。

奉太郎「俺はいつも早いつもりだが」

里志「そんな、僕だってそのつもりだよ」

俺と里志が千反田の言葉に待ったを掛けた所で、伊原が顔を見せた。

摩耶花「よく言えたわね、二人共」

摩耶花「それにふくちゃん、昨日も時間ギリギリだったよね」

里志「あ、あれは不可抗力だよ」

摩耶花「ふうん……」


288: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 20:59:33.19 ID:obKv5onk0

朝っぱらから、いつも通りだな……こいつらは。

える「あ、あの!」

そんな里志と伊原の口論を千反田が止めた。

える「お話、してもいいでしょうか?」

摩耶花「あ、ごめんね」

里志「そう言えば、今日一度集まろうって言ったのは千反田さんだったね」

える「ええ、少し大事なお話があるんです」

俺は内容を知っていたが、もう一度整理する意味も含めて耳を傾ける事にした。

える「実はですね」

える「入須さんに、プレゼントを用意しているんです」


289: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:00:01.12 ID:obKv5onk0


里志「卒業祝いって奴かな?」

える「勿論、その意味もあります」

える「他にも、入須さんには色々とお世話になったので……」

摩耶花「いいんじゃない? 入須先輩も喜ぶと思うよ」

える「……はい」

える「それでですね、なんとか入須さんとお話する機会を得たいのですが……」

奉太郎「ああ、大体は考えている」

俺がそう言うと、里志と伊原はこちらに顔を向けた。

摩耶花「あれ、折木は知ってたの?」

奉太郎「……まあな」

里志「知っていて黙っているなんて、何か言ってくれれば良かったのに」

奉太郎「ただ言いそびれただけだ」


290: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:00:27.89 ID:obKv5onk0

える「ふふ」

える「あのですね、プレゼントはこれです」

千反田はそう言うと、持ってきていた小さな袋から手袋とマフラーを取り出した。

摩耶花「うわっ! すごい」

摩耶花「これ、手作りでしょ?」

える「ええ、まあ……」

里志「へえ、さすが千反田さんって言った所だね」

里志「見事な出来栄えだよ」

える「……季節外れかもしれませんが」

摩耶花「そんな事ないでしょ、また寒くなったら使えるんだし」


291: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:00:55.18 ID:obKv5onk0

ううむ、居心地が悪いな、これは。

える「……実は、折木さんと一緒に作ったんですよ」

言うとは思ったが、やっぱり言って欲しくなかった。

摩耶花「え、折木も作ったって事?」

える「今、そう言いましたが……」

里志「横で文句言ってただけとかじゃなくて?」

える「しっかり作っていましたよ……」

こうなるからだ。

摩耶花「……意外と、やれば出来るんだね」

里志「……そうだね、なんでもやってみる物だ」

奉太郎「俺をやれば出来る子みたいに言うな」

奉太郎「それよりも、入須と話す機会の話だったろ」


292: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:01:32.19 ID:obKv5onk0

える「あ、そうでした」

当の本人が忘れているとは、全く。

奉太郎「卒業式が始まる前は、流石に駄目だろうな」

里志「まあ、そうだろうね」

奉太郎「なら、終わった後だ」

摩耶花「でもさ、終わった後もクラスの人と話したり、どこかに遊びに行ったりあるんじゃない?」

奉太郎「……入須がわいわい皆とやると思うか?」

里志「……それは少し、想像し辛いね」

奉太郎「ならどうせ、終わったらさっさと帰るだろ、その時に声を掛ければいい」

える「入須さんはそこまで寂しい人じゃないと思いますが……」


293: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:02:06.76 ID:obKv5onk0

確かに、入須も恐らく声を掛けられたらそれに付き合うくらいの事はするかもしれない。

だが、あくまでその前に声を掛ければ済む話だ。

それに俺達の用事と言う物はさほど時間を取らないだろうし、入須には少し悪いがクラスの用件を後回しにしてもらえばいい。

奉太郎「ま、とにかく終わった後に声を掛けよう」

奉太郎「誰も行かないなら俺が行くが、どうする?」

える「あ、私が呼びに行ってもいいでしょうか?」

恐らく千反田もどこか、入須と話す機会が欲しかったのかもしれない。

なら俺に、それを却下する理由は無かった。

奉太郎「じゃあそれは任せる、俺は部室で待っているよ」

里志「そりゃそうだ、ホータローが自ら動くのは似合わないよ」


294: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:02:34.52 ID:obKv5onk0

奉太郎「……そりゃどうも」

里志「僕と摩耶花は、居てもいいのかな?」

える「ええ、お二人にも是非来て頂きたいです」

摩耶花「うん、分かった」

摩耶花「一緒にお祝いしよう、入須先輩を」

里志「あ、僕は委員会の関係でちょっと遅れちゃうから、もしかしたら居合わせられないかもしれない」

える「そうですか……」

里志「もし間に合いそうなら、すぐに行くよ」

える「はい! お待ちしていますね」


295: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:03:00.69 ID:obKv5onk0

とりあえず、今日の予定は決まったか。

俺は卒業式が終わったら真っ直ぐ部室に行き、千反田が入須を連れて来るのを待っていればいい。

簡単な仕事である。

伊原もすぐに部室には来るだろうし、退屈はしないかもしれないな。

奉太郎「……そろそろ時間か」

里志「そうみたいだね、まずは卒業式」

里志「しっかりと、見送ろうか」


296: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:03:27.63 ID:obKv5onk0

~卒業式~

体育館にはかなりの人数が集まっていた。

二年生全員、三年生全員、三年の保護者達、それに教師、来賓の人ら。

数えたら切りが無いだろう。

一番前は三年、次に二年、そして保護者達、と言った並び方になっていた。

右から順番に、クラス毎に用意された椅子に着く。

こんなにも人が居なかったら本でも読みたい気分だが……さすがにここまで人が居るとそんな気にもなれない。

俺は仕方なく、行儀良く式が始まるのを待っていた。


297: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:03:54.43 ID:obKv5onk0

……眠いな。

思わずあくびが出てしまう、ばれないだろうし……いいか。

あくびが数回出た所で、校長と思われる人物が入ってきた。

辺りが静まり返る、ようやく始まるのか。

なんとも長ったらしい挨拶が終わると、中学生でもやっていた様な一連の流れが始まる。

まずは卒業生達が入場してきた。

うむ、ほとんど面識が無い。

入須は見当たらなかったが、多分群れの中にいるのだろう。

三年全員が席に着くと、早速卒業証書の授与が始まった。


298: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:04:20.61 ID:obKv5onk0

……こう言ってはあれだが、とても退屈な時間だった。

その後は何やら、色々な代表達の挨拶が始まり、俺は特に誰かも分からなかったので聞き流す。

そして、在校生代表の挨拶がやってきた。

俺はこの時、多分誰とも知らない奴が挨拶するのかと思っていたが……代表として立ったのは、俺が見知った人物だった。

あいつ、在校生代表だったとは……全く知らなかったな。

まあでも、総務委員会に勤めているだけあって適任なのかもしれない。

そう、福部里志である。

少し遠かったが、いつもより幾分か緊張している様子だった。

里志『まずは、卒業生の皆様、おめでとうございます』


299: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:04:47.74 ID:obKv5onk0

流石にいつもの調子は出ない様で、堅い挨拶をしている。

それが少しだけ面白く、俺は今日始めてその挨拶に耳を傾けていた。

里志はそのまま思い出等を語っていて、喋りだしてからは大分落ち着いている様に見えた。

あれは俺には出来ない、里志の持っている物だろう。

そして5分ほどで、里志の挨拶は終わった。

次いで、卒業生の挨拶が始まる。

呼ばれた名前は、入須。

……確かに入須なら、似合っているかもしれないな。

周りが一段と静まり返り、挨拶が始まった。


300: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:05:13.66 ID:obKv5onk0

入須『本日は、私達の為に集まって頂きまして、本当にありがとうございます』

入須『そして、この様な盛大な卒業式を開いて頂き、ありがとうございます』

……さすがは女帝と言った所か。

緊張している様子も無く、しっかりと言葉を発していた。

まあ、いつもの口調とは違い、大分堅い感じがしていたが。

入須『思えば、私達が神山高校で過ごした三年間は、色々な方に支えられていました』

入須『文化祭、星ヶ谷杯、体育祭、球技大会』

入須『私達がこれらの行事に励めたのも、ここに居る皆様のお陰です』


301: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:05:43.38 ID:obKv5onk0

入須『そして私達をここまで教えてくださった先生方、本当にありがとうございました』

入須『私達は今日、この学校で学んだことを胸に、それぞれの進路へと旅立ちます』

入須『卒業生を代表し、答辞とさせて頂きます』

入須『本当にありがとうございました』

中学の時なんかは、卒業生代表は最後まで言葉を言うのも辛そうな程、泣きそうだったが。

入須は違った、しっかりと最後まで、言葉を述べていた。

……しかし、何やら様子がおかしい。

答辞は終わった筈なのに、入須がそこを動こうとしなかったのだ。

それに先生や生徒も気付き始め、僅かに場がざわつく。


302: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:06:38.27 ID:obKv5onk0

入須「……」

少しだけ、口が動いているのが見えた。

多分だが、私は。 と言ったのかもしれない。

入須『私には、謝らなければならない人が居る』

さっきまでの堅い感じは消えており、いつもの入須の口調へとなっていた。

それより、なんて事だ。

あの入須が、こんな形で俺と千反田に言葉を向けるとは。

入須『この場を借りる形になってすまない』

入須『ここで名前を呼ぶ訳にもいかない、だから』

入須『私の独り言だと思って、聞いてくれ』


303: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:07:09.41 ID:obKv5onk0

先生らは、止めるか止めないか迷っている感じであった。

しかし、ここに居る人全員が入須の意思を汲んだのか、やがて場が静かになった。

入須『私は間違いを犯した』

入須『あの時は、それしか無いと思っていたんだ』

入須『だがそれは違うと教えてくれたのは、二年生の子であった』

言わずもがな、俺の事か。

入須『……そして私のした事は、一人の人間を酷く傷付けた』

入須『本当に、申し訳ない事をした』

そう言うと、入須は深々と頭を下げた。

こんな大勢の中で、まさか謝られるとは……全く予想外であった。

俺はつい、そのまま入須は壇上から降りて、式は予定通り進む物かと思ったが……


304: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:07:44.77 ID:obKv5onk0

「それは違います!!」

どっからともなく、聞きなれた声が聞こえてきた。

あの馬鹿、そんなの後で言えばいいだろう!

「入須さんも、あなたも傷付いたではないですか!」

「顔を……顔を上げてください」

最後の言葉は消え入りそうな物だったが、辺りは静まり返っていた為か、入須までしっかりと届いていた。

入須『君も、彼と同じ事を言うのだな』

入須『……ありがとう』

そして、周囲の視線にやっと気付いたのか、千反田が慌てて席に着いているのがこちらからでも見えた。


305: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:08:12.37 ID:obKv5onk0

入須『以上で私の挨拶は終わりだ』

入須『二年生諸君、時間を取らせてすまなかった』

入須『先生方、予定外の行動を取り、申し訳ありませんでした』

そう言い、二度頭を下げると、入須は壇上から降りた。

次に巻き起こったのは、盛大な拍手であった。

事情を知っているのは恐らく、俺と千反田に里志と伊原だけだろう。

しかしそれでも、入須の挨拶には人を惹きつける物があったのかもしれない。

……あいつは、最後の最後まで女帝だった。


306: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:08:39.27 ID:obKv5onk0

~公園(現在)~

奉太郎「あれには驚いたな」

える「入須さんの挨拶ですか?」

奉太郎「なんとなく、いつかしっかりと話してくるだろうとは思っていたが」

奉太郎「まさかあの場面でするとはな」

える「私も驚きましたよ」

える「つい、返してしまいました」

奉太郎「俺はそれにも驚いたぞ」

奉太郎「確かあの時、後で言えば良いだろって思った」

える「気付いたときには、言葉が出ていて」

える「そして、次に気付いたときには、周りの方が私の方を見ていて……」


307: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:09:23.32 ID:obKv5onk0

奉太郎「……いいんじゃないか」

える「……どういう意味ですか?」

奉太郎「千反田らしくて、いいんじゃないか」

える「あ、え、えっと。 ありがとうございます」

奉太郎「いや、別に褒めてはいないが」

える「……そうでしたか」

奉太郎「悪い事とも言ってないがな」

える「もう、はっきり言って欲しいです」


308: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:10:01.67 ID:obKv5onk0

奉太郎「……まあ」

奉太郎「どっちかと言えば、良い方なんじゃないか」

奉太郎「俺からの視点だがな」

える「それだけ聞ければ、十分です」

それにしても、日が大分落ちてきている。

温度が少しだけ下がっているように感じた。

念のため何枚もシャツを重ねて、厚手の上着を着て来たのは正解か。

しかし千反田は簡単な物しか着ておらず、幾分か寒そうに見えた。


309: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:10:28.54 ID:obKv5onk0

……別に自己犠牲、と言う訳でもない。

俺は本当にまだ寒いとは思っていない訳だし、上着を貸してやるのが普通だ。

奉太郎「……ほら」

える「え、悪いですよ」

奉太郎「去年は俺が風邪を引いて、今年はお前とかになったら笑い話にもならんだろ」

奉太郎「俺は大分暖かい格好をして来ているから、大丈夫だよ」

える「そうですか、ではお言葉に甘えて」


310: ◆Oe72InN3/k 2012/10/11(木) 21:16:02.75 ID:obKv5onk0

千反田が俺の上着を着た所で、再び思い出を掘り返す。

卒業式が終わった後の事。

終わり良ければ全て良しとは、いい言葉だと思う。

過程が悪くても、最後に笑っていられればいいのだから。

しかしそれも、今だから言える事か。

あの後、確か千反田はそのまま入須の教室へと向かったんだったな。

俺は古典部で、入須と千反田を待っていたんだ。

……少しだけ、悪い事をしてしまった。


第7話
おわり


322: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:48:42.26 ID:L3ltJ5W60

それにしても、入須さんの突然の挨拶にはびっくりしました……

思わず大声をあげてしまい、恥ずかしい限りです。

でも……とても、嬉しかったです。

入須さんも最後は笑っていましたし、これにて一件落着……

ではありません!

私にはまだ、役目があるのでした。

危うくそのまま帰ってしまう所でした……

える「入須さんは教室でしょうか」

卒業式が終わって、三年生の方達が退場した後に、私達は教室へと戻ったのですが。

時間的にはそこまで経っていない筈です。

それならばまだ、入須さんは教室に居るでしょう。

私はそう思い、三年生の教室へと少しだけ急ぎながら向かいました。


323: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:49:20.87 ID:L3ltJ5W60

~教室~

ええっと、入須さんは……

その時、後ろから声を掛けられます。

沢木口「あれ、君は確か……古典部の子だっけ?」

える「あ、ご無沙汰しています」

沢木口「それで、何か用事でもあったの?」

える「ええ、実は……」

私の用事をお話すると、沢木口さんは早速入須さんを呼び出してくれました。

……一年生の終わりに、迷惑を掛けてしまったというのに。

沢木口さんはそんな事は無かったかの様に、私に笑顔を向けています。


324: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:49:56.01 ID:L3ltJ5W60

える「あの、ありがとうございます」

沢木口「いいって、気にしないで」

そう言うと、沢木口さんは友達の所へと向かっていきました。

その後、数分待った後、入須さんがやって来ます。

入須「千反田か、さっきはすまなかったな」

える「びっくりしましたよ」

入須「……そうだな」

入須「あの場面で、あの様に呼び掛けるのが一番効果的だと思ったから」

入須「と言うのはどうだろうか」

える「え、そうだったんですか」


325: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:50:28.23 ID:L3ltJ5W60

入須「ふふ、嘘だよ」

入須「あれは私の言葉だ」

える「……そうですか、良かったです」

入須「にしても、千反田はもう少し人を疑った方がいいと思うぞ」

える「入須さんの言っている意味は、分かります」

える「でも、それでも」

える「私は、人を信じる方が好きですから」

入須「……そうだったな」

そこで一度会話が途切れ、示し合わせた訳でも無く、私と入須さんは教室内の喧騒を眺めていました。

入須「それで、用事とは何だ?」

顔をそのまま動かさないで、入須さんは言いました。


326: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:50:54.38 ID:L3ltJ5W60

える「あ、そうでした」

える「お時間は取らせませんので、付いて来て欲しい場所があるんです」

私がそう言うと入須さんは少しだけ困った顔をします。

入須「……実は、クラスの奴等と予定があってな」

える「……わ、分かりました」

だ、駄目です。

このままでは古典部の皆さんに合わせる顔がありません……

入須「申し訳ないが、別の日でもいいか」

える「え、えっと……」


327: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:51:20.46 ID:L3ltJ5W60

私が戸惑っていると、教室の中から声が聞こえてきます。

それは、入須さんに向かって発せられていた声でした。

内容は、こっちを後回しにすればいい、との物で……

私はやはり、人に助けられていてばかりの様な気がします。

入須「……との事だ」

入須「なら断る理由が無くなったな、行こうか」

える「は、はい! ありがとうございます」

私は入須さんに頭を下げ、教室内に居る方達にも頭を下げました。

……良かったです、これで入須さんを驚かせる事が出来ます!

私の足取りは軽く、入須さんとお話をしながら古典部へと向かいました。


328: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:51:57.88 ID:L3ltJ5W60

~古典部~

える「着きました、入須さん」

入須「ここは、古典部か」

える「はい、とりあえず中に入りましょうか」

入須「ふむ、そうだな」

古典部の前でそう話をし、私は扉を開けます。

中には既に、折木さんと摩耶花さんが居ました。

福部さんはまだ、来ていない様です。

……でも、何か変です。


329: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:52:25.18 ID:L3ltJ5W60

これから入須さんを驚かせると言うのに、二人ともどこか浮かない顔をしていたのです。

……福部さんが来ていないからでしょうか?

いいえ、それは違う筈です。

摩耶花さんは分かりませんが、折木さんは例え福部さんが居ないとしても、ここまで分かりやすく暗い顔はしない筈です。

あくまでも、私の経験上……ですが。

える「あ、あの」

奉太郎「千反田か」

私が声を掛けた事でようやく、折木さんはこちらに顔を向けました。

……やはり、いつもと少し違う様な。


330: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:52:52.52 ID:L3ltJ5W60

える「あの、何かあったんですか?」

入須さんも異変には気付いた様で、扉の近くで待っていてくれました。

奉太郎「……ちょっとな」

摩耶花「ち、ちーちゃん」

摩耶花「そ、その……ごめん」

何故、摩耶花さんは私に謝るのでしょうか?

える「ええっと……」

私がそう言い、考えていると、折木さんが口を開きます。

摩耶花さんはまだ何か言いたい様な顔をしていましたが、それを遮るように折木さんは言ったのです。


331: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:53:18.23 ID:L3ltJ5W60

奉太郎「簡単に言うぞ」

奉太郎「手袋に穴が開いた」

える「……どういう意味ですか?」

奉太郎「聞くより、見たほうが早いだろ」

そう言い、折木さんは私に手袋を差し出します。

……それは確かに、少しだけですが、穴が開いています。

摩耶花「……それ、その」

奉太郎「部室の鍵が開いていたんだ」

奉太郎「それで、俺と伊原が来た時には既にこうなっていた」

奉太郎「そうだろ?」

折木さんはそう言い、摩耶花さんの方に顔を向けます。


332: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:54:23.45 ID:L3ltJ5W60

摩耶花「……」

摩耶花さんはその言葉に答えませんでしたが、折木さんが言うからにはそうなんでしょう。

なるほど、摩耶花さんが先程、私に謝ったのは恐らく……しっかりと見張っていられなかったからでしょう。

でも、一体誰が……

える「……酷いです、こんなのって」

える「あんまりです」

そこで、後ろで待っていた入須さんが声を掛けてきます。

入須「大体の事情は分かった」


333: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:55:12.56 ID:L3ltJ5W60

入須「千反田はその手袋を、私にプレゼントしようとしてくれたんだな」

える「……はい」

入須「だが、何者かによって手袋には穴が開けられた」

入須「そうだな?」

奉太郎「……ええ」

入須「それが何だ、縫えばすぐに治るだろ」

える「で、ですが!」

入須「もしかして」

入須「私に裁縫は無理だと言いたいのか?」

える「そ、そういうつもりではないです」

入須「ならいいじゃないか、是非渡してくれ」

その言葉を聞き、私は一度、折木さんの方へと顔を向けます。


334: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:55:38.80 ID:L3ltJ5W60

奉太郎「貰う人がああ言ってるんだ、渡してやれ」

える「……分かりました」

こんな形になってしまいましたが……入須さんは、喜んでくれるのでしょうか。

それだけが少し、心配です。

私はそんな事を思いながら、手袋とマフラーを入須さんに渡しました。

入須さんはそれを受け取ると、とても優しそうな笑顔で、こう言いました。

入須「最高のプレゼントだよ、ありがとう」

える「は、はい!」

える「あの、それは折木さんも作ったので……」

入須「そうなのか、ありがとうな」

入須さんはそう言うと、折木さんに頭を下げました。


335: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:56:19.92 ID:L3ltJ5W60

奉太郎「……余計な事を」

口ではそう言っていましたが、照れているのはすぐに分かります。

そしてその後、入須さんはクラスの方達との用事もあり、教室へと戻っていきました。

なんだか、今日別れても、また入須さんとは会えるような……私にはその様に感じられました。

……それより!

える「折木さん」

える「私、気になります!」

奉太郎「……何がだ」

折木さんも、私が何に対して気になるのかは分かっていた様で、暗い顔をしながら答えました。


336: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:56:55.54 ID:L3ltJ5W60

える「……今回の事です」

奉太郎「駄目だ」

える「何故ですか、私……どうしても」

そこまで言った時、古典部にまた一人、やってくる人物が居ました。

このタイミングで来るのは恐らく、福部さんでしょう。

里志「ごめんね、遅れちゃった」

える「お疲れ様です、福部さん」

里志「うん、疲れたよ……って」

里志「何かあったのかい? 皆」

やはり福部さんも、部室の空気に気付いたのでしょう。


337: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:57:41.12 ID:L3ltJ5W60

折木さんも摩耶花さんも説明する気が無い様だったので、私がゆっくりと説明をします。

……説明するのには、あまり慣れていないせいもあって、随分と回りくどい説明になっていまいましたが。

里志「なるほど、そういう事か」

里志「それで、ホータローは何か分かったのかい?」

奉太郎「……何も」

里志「本当かい? 僕が見た限り、何か分かっている顔だけど」

える「そうなんですか? 折木さん!」

やはり、折木さんは分かっていたのでしょう。

それならば、聞かない以外の選択はありません。

ですが……


338: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:58:24.26 ID:L3ltJ5W60

奉太郎「分からないと言ってるだろ」

奉太郎「……帰る」

そう言い、折木さんは鞄を手に取ると、部室を後にしようとします。

える「ま、待ってください」

私はそれを見て、付いて行きます。

一度、福部さんと摩耶花さんの方に振り返り、顔を見ました。

福部さんは困ったような顔をしていて、摩耶花さんは未だに暗い顔をしています。

福部さんと摩耶花さんを残して帰るのは気が引けますが……

折木さんがここまで答えない理由が、少し気になってしまうのです。

そして私は、折木さんの後に続きました。


339: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 18:59:04.10 ID:L3ltJ5W60

~帰り道~

学校から出て、前を歩いている折木さんを見つけます。

私は駆け足で近寄り、横に並んで歩き始めました。

奉太郎「悪いな、さっきは」

える「……いえ、気にしないでください」

奉太郎「いつも自分は気になると言うのに、気にしないでと来たか」

える「……あの」

奉太郎「気になるか、さっきの事」

える「気にならないと言えば、嘘になってしまいます」

える「……やはり、気になります」

える「折木さんには、嘘を付きたく無いんです」


340: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:00:01.49 ID:L3ltJ5W60

奉太郎「そんなの、小さい事だろ」

える「どんなに小さくても嫌なんです」

奉太郎「……」

その後、私と折木さんの間を少しの沈黙が包みます。

奉太郎「……はあ」

奉太郎「……お前には、話しておくべきか」

える「えっと……」

奉太郎「さっきの事だよ、他言無用で頼むぞ」

える「それを決めるのは、聞いた後がいいです」

奉太郎「……ああ、分かった」


341: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:00:45.97 ID:L3ltJ5W60

そう言うと、折木さんはゆっくりと話し始めました。

奉太郎「まず、俺と伊原が部室に行った時、鍵は閉まっていた」

える「でも、さっきは開いていたと……」

奉太郎「あれは嘘だ、すまんな」

える「では、一体何故?」

奉太郎「つまり……」

奉太郎「今日、古典部の部室を訪れたのは……卒業式が終わった後は俺と伊原だけになる」

える「……そうなりますね」

奉太郎「そして、俺と伊原は部室でお前が来るのを待っていたんだ」

奉太郎「いつもみたいに席に着いて、な」

奉太郎「その時、入須へのプレゼントは部室に置いていただろう?」

える「ええ、あれを持ち歩くのは少し、大変そうだったので」


342: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:01:51.69 ID:L3ltJ5W60

奉太郎「それで、伊原が俺にもう一度プレゼントを見ていいか聞いてきたんだ」

奉太郎「それを断る理由なんて無い、俺は見ていいぞと言った」

える「……はい」

なんとなく、私にも分かってきました。

奉太郎「机は木で出来ているからな」

奉太郎「しかも結構古い、ささくれている部分がいくつかあった」

奉太郎「それにあいつは、伊原は手袋を引っ掛けてしまった」

える「……」

奉太郎「気付いた時には、あの状態になっていた」

奉太郎「……そういう事だ」

える「……そうでしたか」


343: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:02:17.41 ID:L3ltJ5W60

奉太郎「俺には皆に話すという選択もあったがな」

奉太郎「結果的にお前には話してしまったが、まあ」

奉太郎「一番悪いのは、俺だろうな」

える「何故、そう思うんですか」

奉太郎「さっきも言っただろ、話すという選択もあったんだ」

える「違います、そんな選択はありませんでした」

奉太郎「……どういう意味だ」

える「私は、少なからず、折木さんについては知っているつもりです」

える「他の人なら分かりません、ですが」

える「折木さんにとっては、摩耶花さんを庇う以外に選択は無かった筈です」


344: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:03:11.10 ID:L3ltJ5W60

私がそう言うと、折木さんは顔を私とは反対側に向け、小さく呟きました。

奉太郎「……どうだかな」

える「ですが、今……この場なら、選択は他にもあります」

奉太郎「何が言いたい」

える「戻って、福部さんにも話すんです」

奉太郎「……それをしたら意味が無いだろ、元々千反田にも言うつもりは無かったんだ」

奉太郎「結果的に話してしまったが、お前が黙っていればそれで終わる」

える「……折木さんは、摩耶花さんの顔を見ましたか?」

奉太郎「……顔?」


345: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:03:36.50 ID:L3ltJ5W60

える「摩耶花さんは言おうとしていたんですよ、自分がした事を」

える「何故、あんな顔をしていたのか……さっきまで分かりませんでした」

える「ですが、折木さんの話を聞いて、全て分かりました」

える「……皆で、話し合うべきです」

奉太郎「……そうだったのか」

奉太郎「余計な事をしてしまったのかもな、俺は」

える「だから、今ならまだ間に合うんです」

奉太郎「……まだ学校に居るとも限らないだろ」

える「いいから、行きますよ!」


346: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:04:22.12 ID:L3ltJ5W60


私はそう言い、折木さんの手を掴みます。

そのまま後ろに向き直り、走りました。

奉太郎「お、おい!」

後ろで折木さんの声が聞こえましたが、気にしないで私は走ります。

……なんだかちょっとだけ、折木さんの前を行っている自分が嬉しかったのを覚えています。

似たような事が前に、あの時は逆でしたが。

いえ、状況も違いました……ですが。

それでも嬉しかったんです、折木さんの手を引いて走れたのが。


347: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:04:52.16 ID:L3ltJ5W60

~古典部~

廊下を駆けて、古典部の前へとやってきました。

そのままの勢いで扉を開けます。

摩耶花「ちーちゃん?」

摩耶花「それに、折木も」

良かった……摩耶花さん達はまだ部室に居てくれました。

える「あ、あの!」

える「摩耶花さんは悪くないです!」

摩耶花「え、えっと?」

奉太郎「千反田、落ち着け」

奉太郎「俺が説明する」


348: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:05:51.89 ID:L3ltJ5W60

……人に説明をするのには、やはり私では厳しい物があるようです。

しかし、摩耶花さんは先程の私の言葉をゆっくりと理解し、折木さんの言葉を遮りました。

摩耶花「……今日の事ね」

摩耶花「実は、それなんだけど」

里志「全部聞いたよ、摩耶花から」

摩耶花「……ごめんね、ちーちゃん」

摩耶花「折木も、ごめん」

奉太郎「なんだ……千反田の言う通りだったって訳か」

える「ふふ、だから言ったでは無いですか」

える「摩耶花さんは悪く無いですよ」

える「入須さんにも今度、お話しましょう」


349: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:06:53.75 ID:L3ltJ5W60

摩耶花「……うん」

そこで折木さんが、扉の傍に立ったままで言いました。

奉太郎「あー、それなんだが」

奉太郎「多分、入須は全部分かっていたんだろうな」

里志「入須先輩が? どうしてさ」

奉太郎「……あいつは場を収めようとしていた」

奉太郎「自分がそのままプレゼントを貰う事によって、これ以上話を掘り下げられない様にしたんだ」

奉太郎「だからあいつには、言う必要は無いだろう」

える「そうだったんですか、私は全然気付きませんでした……」

つまり入須さんは、全て気付いていて……

最後の最後まで、ご迷惑を掛けてしまった様ですね。


350: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:07:21.48 ID:L3ltJ5W60

奉太郎「……すまなかったな、伊原」

奉太郎「お前の考えている事が、俺には分からなかった」

摩耶花「別に、折木が謝る事は無いでしょ」

奉太郎「……少し、外の空気を浴びてくる」

折木さんはそう言うと、部屋の外に出て、どこか風に当たれる場所へと行ってしまいます。

える「……そう言えば」

える「私、まだ少しだけ気になる事があるんです」

里志「はは、ホータローが居ないとどうにもならないかもね」

摩耶花「私達で良ければ聞くけど……」

える「あのですね」

える「摩耶花さんは何故、そのお話を福部さんにしたのでしょうか?」

摩耶花「それはさっきも言ったよ、元から私は……話すつもりだった」

える「ええ、それは分かります」

える「ですが、皆さんが揃っていた場面でも言えた筈なんです」

摩耶花「……やっぱり、ちーちゃんには分かっちゃうのかな」

える「すいません、失礼な事を言っているのは分かっています……」


351: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:07:49.74 ID:L3ltJ5W60

摩耶花「いいよ、話そう」

摩耶花「思い出したんだ」

摩耶花「ちーちゃんと入須先輩が来る少し前に、折木が言った事を」

える「……折木さんは何と言ったんですか?」

摩耶花「折木はね」

摩耶花さんはそう言うと、私の耳に口を近づけ、福部さんに聞こえないように教えてくれました。

その言葉を聞いた私は、やはり折木さんは折木さんだと感じる事になります。

折木さんの言葉を借りるなら、あくまでも私からの視線、ですが。

でもやはり、折木さんという方は……そういう方なのでしょう。

里志「千反田さんの気持ちが良く分かるよ、とても気になる」

摩耶花「……だめ、私とちーちゃんの秘密だから」

える「ふふ、そうですね。 秘密です」


352: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:08:20.92 ID:L3ltJ5W60

摩耶花「それにしても、似合わないと思わない?」

そうでしょうか?

私にはとても似合っている台詞の様に思えますが……

える「私は、折木さんらしいと思いますよ」

摩耶花「ふうん、なるほどねぇ」

摩耶花さんは何故かニヤニヤとしていましたが……それよりも私には、行きたい場所がありました。

える「私……折木さんの所に行ってきますね」

私はそう告げ、部室を後にします。


353: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:08:46.72 ID:L3ltJ5W60

~屋上~

える「見つけました」

奉太郎「千反田か、何でここに居ると思った?」

える「なんとなくです」

奉太郎「……そうか」

折木さんは屋上から景色を眺めていて、私も横に並び、一緒に景色を眺めました。

える「もう、日が暮れてきていますね」

奉太郎「結局、卒業生達より長く居残ってしまったな」

える「そうみたいです」

奉太郎「それで、どうして急に来た」

える「……折木さんの顔を、見たかったので」


354: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:09:20.34 ID:L3ltJ5W60

奉太郎「そ、そうか」

える「あの、折木さん」

奉太郎「ん?」

える「……いえ、何でも無いです」

奉太郎「変な奴だな」

える「ふふ、帰りましょうか」

奉太郎「……ああ、そうだな」

私は先程、摩耶花さんから聞いた折木さんの言葉について、何か言おうと思っていましたが……

この事は、私の胸の内に、閉まっておく事にしました。

その言葉はとても優しい物で、きっと折木さんは……あまり人に知られたく無いと思っているでしょう。


355: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:09:58.70 ID:L3ltJ5W60

~公園(現在)~

奉太郎「あの時は……お前に助けられたな」

える「そうでしょうか?」

奉太郎「ああ」

える「お礼をまだ聞いていない様な気がするんですが……」

千反田はそう言い、自分の口元に指を当てた。

奉太郎「お前はそんな奴だったか」

える「いつも通りですよ?」

奉太郎「……ありがとうな」

える「ふふ」


356: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:10:59.96 ID:L3ltJ5W60

える「しっかり、目を見て言って欲しいです」

なんだ、様子がおかしいぞ。

……まさか、コーヒーのせいなのだろうか。

千反田はただ、眠れなくなるだけと言っていたが……とんでもない。

恐らく自分では分かっていないのだろう、今度教えねば。

える「どうしたんですか? 折木さん」

とりあえず、今は千反田の言う通りにしておくのが無難か。

奉太郎「ありがとう、千反田」

える「そんな、見つめないでください」

……面倒だ。


357: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:11:27.70 ID:L3ltJ5W60

しかし幸いな事に、辺りは既に、公園の電灯が付くほどに暗くなっていた。

奉太郎「そろそろ帰るか」

える「もっと一緒に居たいです」

奉太郎「い、いいから……帰るぞ」

える「……そうですか、残念です」

今後一切、コーヒーは飲ませない様にしようと強く誓った。

誰に誓った訳でもないが。

える「ふふ」

横を歩いている千反田が急に笑い出すのが少し怖い。

奉太郎「何がそんなに楽しいんだ」

える「折木さんの横を歩ける事です」

奉太郎「それはありがたいお言葉で」

える「では、お礼を言ってください」

奉太郎「……」


358: ◆Oe72InN3/k 2012/10/13(土) 19:12:21.48 ID:L3ltJ5W60

その言葉は無視したが、千反田本人も大して気にしていなかったのか、それ以上お礼を求める事は無かった。

える「私たちも、もう三年生ですね」

える「皆さんと一緒に居られるのも、後一年ですか」

える「……寂しいです」

なんだ、さっきまでニコニコしていたと思ったら……今度は泣きそうになっている。

だがまあ……その千反田の気持ちも、分からなくは無かった。

奉太郎「なあ、千反田」

える「はい? どうしました?」

俺はそんな千反田を見ていると、こいつがどこかに行ってしまいそうな気持ちになって、それを振り払うために、言った。

奉太郎「手、繋ぐか」

える「……はい!」

多分いつも通りの千反田なら、俺はこんな事は言えなかったかもしれない。

それはまあ……コーヒーに少しだけ感謝と言う事で。

千反田の家までの時間、短い時間ではあったが……千反田と手を繋ぎ、歩いて行った。


第8話
おわり



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