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折木「(千反田が部活に来ない…)」

引用元: ・http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1343633704/
1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 16:35:04.71 ID:k9j09Lmz0

5月の夕暮れ。
場所は我らが古典部の部室。


摩耶花「ちょっとふくちゃん!まだ話は終わってないんだから!」

里志「摩耶花、ちょっと落ち着いて。」

摩耶花「誰のせいで怒ってると思ってるの!」

里志と伊原が猛烈な言い合いをしている。発端は何だったか…忘れたけどまぁ、些細な事だろう。
ふと気になって時計を見ると、下校時刻が迫っていた。俺は読んでいた本に栞を挟み、席を立とうとする。
さぁ、帰るか。



…。

隣から視線を感じる。


2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 16:36:32.17 ID:k9j09Lmz0

…。そっと隣に目をやる。





ち、近い。

隣どころじゃない。
めちゃくちゃ近い。
いつからその体勢だったんだ。
俺は一歩下がって言う。

折木「…何だ千反田。」

千反田は一歩足を踏み出して言う。おい。折角俺が一歩引いたのに。


3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 16:38:15.18 ID:k9j09Lmz0


千反田「折木さん、あの2人のケンカ、止めなくて大丈夫でしょうか…。」

千反田の視線が近すぎて目のやり場に困る。さりげなく里志たちに視線を移しつつ、言う。

折木「何だ、そんな事か。あいつらは仲がいいから喧嘩をしてる訳だし、放っといて大丈夫だろう。」

千反田「そ、そうでしょうか…。」

折木「ケンカするほど仲がいい、って言うだろ」


6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 16:40:02.80 ID:k9j09Lmz0


千反田「言われてみれば、あの2人はいつもきちんと話をしてケンカしますよね。」

折木「冷戦状態とは無縁だな。」

千反田「素敵ですよね…あの2人のケンカは、きちんと、次に繋がるケンカです。」

折木「しないにこした事はないがな」

千反田「まぁ、そうですね…。」


千反田はそう言って再び、不安そうな顔で2人の様子を見守り始める。


7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 16:42:01.99 ID:k9j09Lmz0




…。


さて、帰るか。

俺は再度決意をする。
鞄を手に、起立!立席!前へ進め!




千反田「…おれきさん…。」

後ろで千反田が泣きそうな顔をしている。何もそこまでお前が気にする事はないだろう。そんな顔でこっちを見るな。


折木「千反田。こういうのは思い切りが肝心だ。見るから気になる。見なければ気にならない。」

千反田「ええ…まぁそうなんでしょうが」

折木「帰るぞ」

千反田「えっ」

回答を待たずに千反田の手と鞄を掴んで部室を出る。
千反田に、あいつらの喧嘩を見て見ぬふりする事が出来ない以上、さっさと帰るのが一番手っ取り早い。
これは俺の掲げる「省エネ主義」の信条に合っている。恐らく。


9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 16:44:24.23 ID:k9j09Lmz0

一階まで降りてくる途中も、千反田は後ろを振り返り振り返り…いや、だからお前がそこまで気負う事はないだろうが。
どっちにしろ下校時刻はもうすぐなんだ。
校務員が来て喧嘩は強制終了させられる事だろう。

校内は無音。
昼間の喧騒はどこへやら、静寂の中に居ると不思議な気持ちになる。昼の学校と夜の学校は、どうしてこんなにも雰囲気に差があるのか。
窓から外を見下ろす。夕暮れも近い。




下駄箱まで降りてきて千反田と一度別れる。
俺はA組、千反田はH組。2年に進級して、クラスが遠くなった。
教室や下駄箱の地理的条件から考えれば最も遠い事になる。
靴を履き替えて、玄関付近でしばし待つ。




…来ない。


11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 16:48:22.61 ID:k9j09Lmz0

更に待つ。








…来ない。

まさか、あまりにも完璧な俺の棒立ちっぷりに、人体模型や彫像の類と勘違いをして横を通り抜けてもう帰宅したか?
いや、それなら俺が気付くか。



…もしかしてあいつ、里志と伊原の様子が気になって再び部室に戻ったのか?


12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 16:50:36.25 ID:k9j09Lmz0

千反田なら、それならそれで俺に一言言ってから行きそうなものだが…

などと思慮を巡らせつつ、H組の下駄箱に歩を進める。

千反田発見。自分の下駄箱の前で、立ち尽くしている。







折木「千反田?」

千反田「っ!!!」

俺が声を掛けると、千反田は靴箱の扉を壮絶な勢いで閉めながら、どこかぎこちない笑顔で言う。



千反田「お、お待たせしてすみませんでした。暗くなってしまう前に、帰りましょう。」


折木「…ああ。」




ここまでが、1週間前の話。


14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 16:53:47.12 ID:k9j09Lmz0




俺が所属する古典部は、4階の地学準備室を部室として活動する文化部だ。
と言っても、何をする部活なのか定かではない。
俺にも分からん。誰にも分からん。
古典部は俺達の入学と入れ違いに部員が全員卒業してしまった為、廃部の危機だった。
だが俺や千反田、里志や伊原が入部した事で古典部は無事に存続できる事になり、千反田を部長に、部員は一丸となって部活動に励んできた。
ただ、一度部員がいなくなっているので、何をする部活なのかがいまいち定かではないのが玉にきずではある。

多くの場合、千反田は彫像を掘り、伊原はシャドーボクシングをし、里志は1人で組体操の特訓をして時間を潰している。
てんでバラバラだ。
ちなみに嘘だ。


16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 16:57:05.47 ID:k9j09Lmz0

読書や会話、勉強…俺達がする事はだいたいそれらに限られる。
要は…古典部は集まっても特にやる事がない。

部室にはそれぞれが行きたい時に行き、行きたくなければ行かない。行けば誰かがいるかも知れないし、いないかも知れない。活動内容が定かではないのだからそれは当然の事なのかも知れないが。参加に強制力は無い。

とにかく、古典部は俺にとってそこそこ、居心地が良かった。行きたい時に行き、誰かが居れば少し話したりもする。積極的に約束されないが連綿と続くもの、それがあの場所にはあるのかもしれないと。俺は、知らず知らずのうちにそう思っていたのかもしれない。




長々と説明を挟んだが、要するに何が言いたいかというと、






この1週間、千反田は古典部に姿を見せていないという事だ。


17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:00:14.91 ID:k9j09Lmz0

俺はA組、千反田はH組。

普通に学校生活を送る上では、なかなか偶然会う事も無い配置だ。
俺はあの放課後以来、千反田の姿を見ていない。
部活動の参加に何の強制力も無い以上、何も言えないとはいえ、気にはなる。




…何か、あったんだろうか?


20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:02:25.78 ID:k9j09Lmz0

古典部の部室で、伊原が言う。


摩耶花「ここ1週間、ちーちゃんを見ないんだけど…」

里志「僕も全く会わないや。」

摩耶花「何かあったのかな…」

俺は小説のページをめくる。

里志「部活にも全然来ないしね」

摩耶花「いつもはちーちゃんが一番部室に顔出すのにね…」

俺は更にページをめくる。

摩耶花「逆に、折木がここ1週間毎日部室に居るのも何か違和感あるけどね。」

俺は更に更にページをめくる。

里志「ホータローは週2か週3が基本形だもんね。何で居るの?」

居たら悪いみたいな言い方はよせ。

摩耶花「まさかちーちゃんに会いに来てるとか?」


おい。


22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:04:02.86 ID:k9j09Lmz0


里志「あー、ホータロー。どうなの?そこんとこ。」

俺は居た堪れず個人的に貫いていた沈黙を破る。

折木「偶然だ偶然。ここは静かで読書に最適だからな。」

言い切ってから不安になる。
…俺、仏頂面、保ててるか?

摩耶花「ふーん。まぁどうでもいいけど」

おい。


24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:06:23.65 ID:k9j09Lmz0

摩耶花「折木はちーちゃん、見てないの?」

折木「ああ。お前らが喧嘩してた日の放課後以来会っていない。」

里志「僕はその翌日の早朝、下駄箱で会ったっきりだなー」

摩耶花「下駄箱?」

そいつは初耳だ。

里志「うん。顔面蒼白っていうか…あんまり顔色良くなかった。」

摩耶花「早朝って…どのくらい早朝?」

里志「まだ教務室が開いてないくらい早朝。」

摩耶花「総務委員も大変ね…でも、ちーちゃんはそんなに朝早くに学校に来て何してたんだろ?」

里志「うーん、何か用事でもあったのかな?」



ふむ。


27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:10:25.62 ID:k9j09Lmz0

翌日。


折木「千反田」

千反田「お、折木さん?」

俺と向かい合った千反田は、どうしてここに?と言いたげな目をしている。
ここはH組。やぁ偶然、という言い訳はなかなか通りにくい場所だ。敢えて言ってみるのも面白そうだが。脳内再生してみる。「やぁ偶然!」…無理だ。キャラ的に。

だが会いに来たのだとは尚更言いにくい。俺の心理的に。
なので要件だけ手短に。


折木「何かあったのか?」

千反田「え?」

折木「最近部室に顔を出さないから」

千反田「え、ええと…なかなか顔を出せなくて本当に申し訳ないです。」

…そんな事じゃなく。
謝る事はない。お前は悪い事など何一つしてないではないか。
部室に顔を出して欲しいのは俺………達が勝手に思ってる事なのに。


30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:11:39.87 ID:k9j09Lmz0

そう思ったら、強烈な自己嫌悪が押し寄せて来た。
まずこの行動は俺の信条に合っていない。
次に、この行動は余りにも自分本位すぎた。
一瞬の葛藤の間に、俺はさぞ微妙な顔をしたのだろう。
千反田は俺の表情に、理由を求められてると感じたようだ。
違うのに。
俺ってそんなに顔に出るのか?



千反田「…探し物を、しているんです。大切な物をなくしてしまって。」

…探し物?


32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:13:24.20 ID:k9j09Lmz0

俺個人の考えとしては、かなり…なんというか、意外だった。
正直に言って、千反田が部室に来ないのは俺….……達が知らず知らずのうちに何かをしでかしてしまった為ではないかと思っていた。
だから部室に顔を出さないんじゃないのかと。
…良かったー。…のか?
というか、それならそうと言ってくれよ。
探し物なら俺達にも手伝えるだろうに。
思ったままを口にしてみる。


折木「なら尚更だ。里志や伊原はお前の為なら喜んで協力するだろ」

俺も、とは言わない。敢えて。特別な理由は無い。無いったら無い。

千反田は俺から目を逸らす。

千反田「いえ…これは、私がやらなくてはいけない事だと思うので。心配してくださって、ありがとうございます。」
…。


そうまで言われたら何もできないだろ。


33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:17:03.75 ID:k9j09Lmz0



里志「何だか寂しいね」

摩耶花「頼って欲しいな…」

俺が千反田の様子を告げると、即座にそんな感想が帰ってきた。
俺の抱いた感想と大体同じなのは置いておこう。
銀河系の隅辺りに放置。ぽーい。

里志「省エネ主義のホータローが、わざわざ千反田さんの教室まで行くなんて驚いたよ。」

折木「さっさと解決しないとエネルギーの浪費に繋がりかねんからな」

里志「それって噛み砕いて言えば、心配しすぎて気になっちゃうからさっさと解決したいって事だよね?」

折木「噛み砕くな。そのまま飲み込め」


36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:19:52.61 ID:k9j09Lmz0

里志「それにしても、千反田さんは一体何を探しているんだろう?」

俺達に協力を頼めないもの。

里志が見た『下駄箱で顔面蒼白になっていた千反田』の様子から考えて…何が思い付くだろうか?





里志「不幸の手紙が靴箱に入っていたとか?」

里志がぼそりと言う。

里志「うちの学校の靴箱は下方に若干の隙間がある。手紙程度なら入れられなくもないよね?」

…ありうる。

摩耶花「じゃあ探してるっていうのは…不幸の手紙を無くしちゃったって事?」

それもありうる。


38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:21:29.28 ID:k9j09Lmz0

摩耶花「私たちに探し物を頼めないのは、不幸の手紙にそういう条件が記載されていたとか?」

里志「あれって確か、人の手を借りずに、手書きで○日位内に○枚書いて誰かに渡さないと不幸になる、みたいな内容だよね?」

摩耶花「ちーちゃんの場合、渡す人に申し訳なくて次の人に回せなさそうだけどね」

…不幸の手紙説、一理ある。








が、何か違うような。

靴箱で起こる事なんてたかが知れている。
「それによって顔色が悪くなるような出来事」なら尚更限定されるだろう。
不幸の手紙。確かに一理あるが…

例えば、「靴を隠された」としたらどうだろう。
見た瞬間失われた靴を見て顔面蒼白になる。
俺達に言えない理由としてもそれなりに筋は通りそうだ。


39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:23:33.59 ID:k9j09Lmz0

…そこまで考えて思い留まる。
待てよ。

この学校の下駄箱は、個人に鍵が与えられている。
鍵は個人に1つずつと、忘れた時の為に教務室に全ての鍵が1つずつ。
普段なら教務室に行けば借りられなくもないだろうが…里志が千反田を見た時、時刻は早朝。
教務室は開いていなかったと言っていた。

つまり予備の鍵を借りる事もできなかった筈だ。
その前日、俺と千反田が帰宅した時刻も下校時刻ギリギリだった。
教務室で鍵を借りる事はできなかっただろう。
という事は、……なんてこった。



千反田の下駄箱は、少なくともあの日の放課後から翌日の早朝までは『千反田にしか開けられなかった』という事になる。


40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:25:23.46 ID:k9j09Lmz0

ならば、靴を盗るなんてもっての他。
使えるのは靴箱の下方、僅かな隙間のみ。

なら、やはり不幸の手紙?
手紙なら僅かな隙間ながら、入れる事は可能だろう。


だが…いくら千反田と言えど、不幸の手紙を恐れるか?


俺は先週の千反田を思い出す。
あの日も、靴箱の前で…
俺の姿に驚いて靴箱を閉めた。
…靴箱?

里志が見たのはその翌朝。
再び靴箱。
今度は顔面蒼白で。


43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:30:37.83 ID:k9j09Lmz0

…。

そうか。逆転の発想か。

おそらく千反田は、靴箱の中に「あるはずのないものが入っていた」から苦しんでいるのではなく「あるはずのものが無かった」から苦しんでいる。

そして俺が見た時には靴箱にはまだそれが「入っていた」


原因は、分かった。
解決する手立ても、恐らくは。

だがしかし。
俺が踏み入っていいものなのか…
少なくとも千反田は探し物が何であるのかを隠そうとしていた。…無理もない。


…どうする?


45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:33:52.60 ID:k9j09Lmz0





折木「千反田」

翌日、俺は再びH組の前で千反田に声を掛けた。

千反田「折木さん」



折木「千反田が探してる物は、恐らくこの学校にはもう、無いんじゃないかと思う。」

千反田「…」

折木「千反田?」

千反田「折木さんは何でもお見通しなんですね…」

折木「そんな訳ないだろ。俺なりに必死に考えた」

千反田「…ありがとうございます」


46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:36:02.14 ID:k9j09Lmz0

話は変わるが、千反田は結構もてるらしい。
豪農千反田家の御令嬢で、眉目秀麗頭脳明晰、その上料理の腕も立つ。まぁ、もてるだろうな。
ただ、あまり知られていないが千反田は好奇心の申し子で、気になる事があればなりふり構わずにそれを追求してしまう傾向にある。それに振り回されるのは大抵俺、折木奉太郎である訳だが。
俺は千反田に振り回されながらも、俺自身、考え方や身の振り方に変化が現れてきたように思う。

例えば今回の件も。

今までの俺なら、ここまで積極的に千反田の問題に干渉しようとは思わなかっただろう。
俺はしばしば、俺の中の省エネ主義が致命的に脅かされているような感覚を感じる事がある。
それがいい変化なのか悪い変化なのか…変化を望まない俺にとって、この事象自体、どう受け止めていいか分からない…が。




折木「…千反田は、手紙を無くしたんだな?」
千反田「…はい。そうです。」


48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:37:31.33 ID:k9j09Lmz0


折木「1週間前の放課後、千反田は鍵を開け、靴箱を開いた。すると、見慣れない手紙が入っていた。その手紙の内容はまぁ………その、省くとして…それを読んでいたら、俺が千反田の様子を見に行ってしまった」

千反田「…はい。」

折木「その様子を見られたくなかった千反田は慌てて隠した。急いで手紙を靴箱に戻して、鍵を掛け、俺と共に下校した。」

千反田「そうです。」


51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:38:44.75 ID:k9j09Lmz0


折木「翌朝、千反田は靴箱を開け、手紙を回収しようとした。だが」

千反田「手紙は、入っていませんでした。」

折木「…里志が千反田を見たのは、その時なんだな」

千反田「そうです。私があんまり血の気の失せた顔をしていた為か、随分心配してくださいました」

折木「そして、千反田は手紙を探し始めた。」


53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:42:14.05 ID:k9j09Lmz0


千反田「…はい。先週、折木さんと別れた後、学校まで取りに戻ろうとしたんですが…下校時刻が過ぎていて、玄関も閉められた後で…。」

千反田は更に続ける。

「私にしか鍵は開けられないから、翌朝でも大丈夫だと、思って…でも翌日、靴箱を開けたら手紙が見当たらなくて。」

「きっと、折木さんと別れる前に、靴箱に入れたつもりになっていただけで本当は入れてなくて、どこかに紛れてしまったんだと思って…散々探しました。だけど見つからないんです。」


言いながら千反田は目に涙を浮かべる。いかん。俺が泣かせてるみたいじゃないか。

ええと…何と言えばいい?「泣かないでくれ」「お前は悪くない」違う、ええと…どうしたらいいんだ?



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:46:07.22 ID:k9j09Lmz0


折木「…お前は手紙をなくしてはいない。」

…悩んだ割に簡素な言い方になってしまった。


千反田「なぜそう言い切れるんですか」

千反田が俺を見つめる。
涙は零れない。とりあえず安堵。


折木「靴箱の鍵は教務室に1つずつ予備がある。あの鍵を使えば、手紙を盗む事は可能だろう」

千反田「で、でも。鍵を借りれば分かるはずです!教務室の先生に声を掛けなくてはなりませんし、名前を書かないと借りられません!それに、あの時は時間的に、恐らく借りる事すら出来なかったと思います。」


56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:47:39.47 ID:k9j09Lmz0

折木「それらの問題は突破できる。話の順序の為にひとまず時間の問題は置いておくとして…鍵の借り方だが。誰の鍵を借りたかまでは追求されない。教師は意外と適当だ。クラスの確認だけしたら後は好きに持っていけと言わんばかりの態度だ。」


千反田「なぜ知っているんです」

折木「俺も何度か世話になった」

千反田「そうなんですか」


57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:50:30.18 ID:k9j09Lmz0

折木「つまりお前のクラスの誰かなら、鍵を借りられる。お前の靴箱から手紙を取り出す事は可能なんだ。」

千反田「….だとしたら、一体どなたが…わざわざ手紙を持って行ったんでしょう…?」

折木「…いや、そもそも俺達は前提から間違っていた。俺は手口に検討が付いてから、自分の靴箱に行き、検証してみた。そしたら…手紙は、入れられなかったよ。靴箱の隙間からは、手紙を入れるのは無理だった。」

千反田「え!?」


59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:55:06.45 ID:k9j09Lmz0



折木「靴箱の隙間は下方しか空いてない。手紙を入れるには、どうしたって靴が邪魔だ。」

千反田「言われてみればそう…ですね」

折木「第一、あの日の放課後、千反田は俺が行くとすぐに靴箱の扉を閉めて俺と一緒に帰った。つまり、お前は手紙を発見する前に、既に靴を履き変えていたことになる。もしかして、手紙は『靴の下に』置かれていたんじゃないのか?」

千反田「!そ、その通りです…私、確かに…靴を履き替えようとして、靴を持ち上げて…それで手紙に気が付きました…」


60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 17:57:21.01 ID:k9j09Lmz0


折木「手紙を靴の下に滑り込ませるなんて芸当は到底不可能だ。なら、手紙を抜く時だけでなく、入れる時にも鍵が必要になる。」

千反田「…ではもしかして」

折木「そうだ。手紙を入れた人物と、手紙を抜いた人物は、同一人物だ。」

千反田「…!…で、でも…先程も言いましたが、あの時は時間的に、教務室は開いてませんでした。鍵を借りる事はできなかったと思います。」


61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:01:22.98 ID:k9j09Lmz0


折木「事前に借りて、そのまま返さなければいい。」

千反田「それは無理です。鍵は使ったらすぐに教務室に戻す事になっていますから」

折木「千反田の靴箱の鍵を借りて、自分の靴箱の鍵を千反田の靴箱の鍵の代わりに教務室に返せばいい。そうすれば鍵の数は合う。実際に使用するまで鍵が合わない事に気付く者はいないだろう。」

千反田「そんな…」

折木「これなら鍵を借りる動作は1回で済む。その代わり、自分の靴箱は開けっ放しか閉めっぱなしの二択になるがな」

千反田「…」

折木「手紙を入れた人物は、おそらく下校時刻直前に手紙を入れた。翌朝千反田が見る事を想定して。しかし翌日になって、手紙を渡すべきか思い直して回収しに行ったんだろう。その人物にとっては、千反田が手紙を既に読んでいたことは誤算だった」


62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:04:02.93 ID:k9j09Lmz0

千反田「…じゃあ、私は、あの手紙のお返事を…書かない方がいいんでしょうか。読まなかったように、振舞うべきなんでしょうか。」

折木「…それは……」

千反田「…。いえ、そもそも、あの手紙を下さった方が誰だか分からないんです。無記名でした。だから尚更…どうしていいか分からなくて。」

折木「…」


64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:06:21.17 ID:k9j09Lmz0

千反田「手紙の裏面に『五月の朝のしののめ うら若草のもえいづる心まかせに。』と書かれていました。それくらいしか、その方の手掛かりが無くて…。」

折木「朔太郎だな」

千反田「ええ。萩原朔太郎さんの詩の一節ですね。」

折木「お前のクラスに、最近転校した奴はいるか?」

千反田「え?は、はい。います。数日前に引っ越してしまいましたが…」


折木「その詩は新天地への期待の詩だ。手紙を渡すか渡すまいか悩んでいた事や、自分の靴箱の鍵の開閉状態に無頓着だった事から考えると…まぁ、差出人はその転校した奴、だろう。」

千反田「え?」

折木「詩を引用した意味は、『さよなら、ありがとう。元気でやって行きます。あなたも元気で。』くらいのものだろうな」


65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:09:13.50 ID:k9j09Lmz0


千反田「そう、なんですか…」

ふと、千反田の顔を見る。
普段は近すぎて色々な意味で直視しにくいのだが…今は普通の距離感。
なんとなく、ほっとしたような顔をしている。
俺はというと、最後の最後まで千反田の問題に…特にこの問題には、踏み込んでいいものか悩むところがあった。
故に、俺も、ほっとしていた。




折木「千反田」
千反田「はい」


意を決して、俺は言う。










折木「部活行くぞ」


66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:11:01.23 ID:k9j09Lmz0

千反田「…はい?」

ええい、二度言わすな。
唐突過ぎた感は否めんが。



折木「皆待ってる」
千反田「…はい!」








かくして、『千反田部長、部活に不登校』事件(里志命名)は終わりを告げた。


68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:12:19.06 ID:k9j09Lmz0

千反田は、人の心の機微に敏感だ。人から向けられた好意に対しても、どう応えるべきか、必死に悩んだ事だろう。
例え差出人が分からずとも、そこに込められたものは本物。それを紛失してしまった事に対して、千反田は自らを責めた。取り戻さなければならないと考えた。
俺達に頼れなかったのも、おそらくはその為。


今回の件に関して、俺が思った事はただ一つ。










恋文とは、これまた古風な。


それに尽きる。


69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:15:31.05 ID:k9j09Lmz0

…本当は、もう1つ2つ言ってやりたい事もあるのだけれども。それは俺としても、今のところ、うまく言葉にできそうもない。

だが、千反田が恋文を受け取った事に気付いた時、どうにも動揺してしまった自分が居たのは事実だったと思う。




ふと思い立ってあの詩の一部を吟じてみる。

折木「ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し…」

里志「朔太郎?」

里志が口を挟む。

折木「ああ」

里志「その詩、ホータローらしくないね。」

折木「なぜだ」


70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:18:12.55 ID:k9j09Lmz0

里志「だってそれは日本からフランスへ行く人の、新天地への期待の詩だよ?」

摩耶花「折木は自発的に、わざわざ遠くへ行こうだなんて思わなさそうね」

好き勝手言うな。

…だがその通りか。反論のしようもない。全面降伏。

里志「ホータローときたら、隣の町に行く事すら億劫そうだもんね」

摩耶花「勤労感謝へのアンチテーゼも大概にしてほしいわ」

なんだそれは。


71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:20:05.08 ID:k9j09Lmz0

摩耶花「その詩の続き、どんなのだっけ?」

千反田「『せめては新しき背広をきて きままなる旅にいでてみん。』です。この詩は、遠い場所へ向かう事だけではなく、むしろ旅路の経過を楽しむ事の重要さを言っているように、私は思います。」

折木「新しい背広で、気ままなる旅に、か。」


俺にとっての背広は、俺の生き方をほんの少しだけ、変える事なのかもしれない。
そうして、気ままなる旅へ。
行く先は遠い遠い新天地。
経過を楽しめ、か。


俺は千反田の横顔に、そっと目をやる。


72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:22:16.66 ID:k9j09Lmz0

…。

俺にとっての新天地は、地理的な場所とは違う。
こちらに向かって来てくれているのかもしれない。
思うほど、遠くはない。それなら。
もしかしたら、俺も向かえるのかもしれない。新天地へ。




…と、そこで。
千反田がこちらに振り返った。

あ、目が、







合った。


73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:25:16.06 ID:k9j09Lmz0

何も言えなかった。
長い長い時間のように感じた。
でもそれは俺達……いや、俺、にとってそう感じられただけで、他の人にとってはごく一瞬だったのかもしれない。
沈黙を破ったのは千反田。

千反田「そうだ!折木さん」

言いながら、俺の方へと歩いてくる。歩いてくる。まだまだ歩いてくる。
…おい。近いぞ。これは対話をする距離じゃない。背比べをする距離だ。接近しすぎなんだよお前は。


折木「…な、何だ?千反田」

…動揺が、顔に出てないといいが。

千反田「私、学校に来る途中で、気になる物を目にしたんです!どうか、どうか、あの謎を解いては貰えませんか?私ではいくら考えても、分からなかったんです…」

千反田の好奇心に振り回されるのも久しぶりだ。なんとなく新鮮な気持ちで、答える。


74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:26:03.09 ID:k9j09Lmz0

折木「…ああ、いいぞ」

千反田「ありがとうございます!ぜひ、お願いします!」

感極まった千反田が更に一歩前に身を乗り出す。
おい、まだ近付く気か。
既に…なんというか、人肌を感じてしまう距離なんだが。
暖かい。


俺は精一杯の仏頂面を作り、精一杯のぶっきらぼうな言い方で、言った。

「行くぞ」



end


76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:27:12.02 ID:A2/iVslj0

おつおつ


77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:27:44.08 ID:tro7YSne0


なかなかであった


81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:33:54.42 ID:k9j09Lmz0

意外と規制大丈夫なんだねー

支援ありがとでした
最後まで貼れるとは思いませんでした


以下、後日談貼っていきます
短めです


83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:35:44.08 ID:k9j09Lmz0

【後日談1】里志「僕が思うに、これは叙述トリックだと思うよ」



摩耶花「どういう事?」

里志「いや、だってさ。さっきの話はホータロー目線で書かれたものだったろう?」

摩耶花「それがどうかしたの?」

里志「僕はホータローが信用できないっ!」

摩耶花「親友に向けて何言い放っちゃってるの!?」

里志「あっ、いやそういう意味じゃなく。全面的には信用してる。信頼してる。…でもこれ本人には内緒ね。さすがに僕にも少々の羞恥心が」

摩耶花「言わないわよ。あいつと話す事、そもそもそんなに無いし」

里志「それもどうなんだろう…あ、でね。話を戻すけど、僕はホータローの目線で語られる物語が信用できないんだ。」

摩耶花「つまり?」

里志「そうだねー。例を出すとね、ホータローが


85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:37:03.55 ID:k9j09Lmz0



俺は今、部室で読書をして優雅なひと時を満喫している。
なんと満たされている事か。
…そこに、勢いよく扉を開けて我らが部長が部室に駆け込んで来る。

「折木さんっ!力を貸して下さいっ!気になる事があるんです」

身を乗り出して俺に迫る。
おい。俺から穏やかな時間を奪う気か…。
好奇心に満ちた目が、真っ直ぐに俺を見る。
こうなったら仕方ない。
「分かったよ。何が気になるんだ?」
「はいっ!あちらです!」
千反田は俺の手を掴んで駆け出す。
俺は大きなため息をついた。






…みたいな事を書いたとするじゃん?」


86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:38:20.80 ID:k9j09Lmz0

摩耶花「うん」

里志「でもそれは、ホータロー目線の話だから。ホータローが本当の事を書くとは限らない。ていうか、ホータローすら自分が嘘を書いてる事に気付いてないのかも」

摩耶花「ああ、なんとなく分かって来たわ。ふくちゃんの言いたい事が」

里志「なんせホータローは、ああ見えて意外と顔に出る。」

摩耶花「そうかも」

里志「ホータロー自身は気付いてないっぽいけどね」

摩耶花「そこがまたおかしいわよね」

里志「つまり、さっきの文章を僕目線から書くと、結果は全然違うって訳さ!」

摩耶花「書いてみて」


87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:40:08.30 ID:k9j09Lmz0


ホータローは今、部室で読書をしている。向かいには僕。いつも通りの仏頂面。
…もうちょっとなんとかならないもんなの?僕は親しい友人として、それなりに心配だよホータロー!
そこに、勢いよく扉を開けて我らが部長が部室に駆け込んで来る。
千反田部長のおなーりー!!
彼女は、開口一番こう言った。

「折木さんっ!力を貸して下さいっ!気になる事があるんです」

ホータローに向かって身を乗り出す。…あれ?今一瞬、ホータローが赤くなった?

…と思ったらまた仏頂面に戻った。えっ、何なの今の。見間違い?白昼夢?蜃気楼?幻覚の類?
えーと、巾着に目薬入ってたっけ?
千反田さんの好奇心に満ちた目が、真っ直ぐにホータローを捉える。
あ、ホータローが降参した。そっぽ向いた。てか顔赤くない?

「分かったよ。何が気になるんだ?」

「はいっ!あちらです!」

千反田さんがホータローの手を掴んで駆け出す。
手を掴まれた瞬間のホータローの顔と言ったら!すぐにまた仏頂面に戻ったけど。
行ってらっしゃいホータロー!僕は隠れて見てるからね!
さぁ2人を追いかけなくちゃ!


89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:42:18.94 ID:k9j09Lmz0

里志「…と、こうなる訳さ」

摩耶花「あー…なるほどね」

里志「ホータローは、千反田さんを前にした時に、自分がどれだけ優しい表情をしているのかに気付いてない訳だよ」

摩耶花「なるほど…折木目線で書かれた物は、少なくとも折木の心理描写に関しては結構、語られない部分も多いのかもね」

里志「だと思う」

摩耶花「じゃあもう全部ふくちゃん目線で書けば?」

里志「そうすると頻繁に嘘とか余談とか織り交ぜちゃうよ?」

摩耶花「うーん…そっか…」

里志「摩耶花が書けば?」

摩耶花「そしたら登場人物から折木はいなくなるかな」

里志「ええー…じゃあ千反田さんに書いてもらうとか」


91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:45:21.62 ID:k9j09Lmz0


摩耶花「色々なものに興味を持っちゃうから話がなかなか展開しなさそうね」

里志「まぁ、誰が書いても結果的には一長一短になっちゃうかな」

摩耶花「となるとやっぱり折木目線で書かれたものを読んで、語られない折木の心理描写を想像すればそれなりに補填できるって事かな」

里志「脳内補填しなければならない部分を僕は一番知りたいんだけどねー」




end


94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:46:48.05 ID:k9j09Lmz0

【後日談2】える「折木さんっ…この手紙、読んでください!」




折木「」

千反田「あの、これ」

折木「これは何だ」

千反田「えっと…手紙、です」

折木「」

千反田「私の思いの丈を込めました」

折木「」

千反田「ちょっと恥ずかしいので、1人で読んでくださいね」

折木「」


96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:47:45.70 ID:k9j09Lmz0


里志「で?何が書いてあったの?」

折木「不幸の手紙だった」

里志「えっ」

折木「不幸の手紙だった」

里志「二回言った!」

折木「…」

里志「ちょ、ふて寝しないで」








千反田「あっ…あれ?何でさっき渡した筈の手紙がまだ鞄の中にあるんでしょう…。折木さんは、面と向かって感謝の意を伝えると顔をしかめてしまいますので…今回は手紙で感謝を伝えようと思ったのに…。ど、どうしましょう。さっき渡したのは何だったのでしょうか…。」


end


98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:49:45.40 ID:k9j09Lmz0

【後日談3】



俺が向かうは古典部部室。

相変わらず辺境の地にある。
扉を開ける。
…誰も居ない。
俺が一番乗りか。

椅子に腰を落とし、読みかけの本を開く。
さて。次に部室に来るのは誰だろう?



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:51:10.70 ID:k9j09Lmz0




掃除当番のせいで遅れてしまいました…。もうどなたか、部室に来てらっしゃるでしょうか。

扉を開けます。
あっ、いました。折木さん。

折木さんこんにちはー…って、…あれ?寝てらっしゃいます。
起こしたら申し訳ないですね。
しーっ!です。

私、初めて知りました。
寝てる時の折木さんは、なんだか幼い顔をしてらっしゃるんですね。うーん、かわいいです。意外な一面です。それにしてもとっても気持ち良さそうに眠っていますね。なんだか私も眠くなってきました。


100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:53:06.32 ID:k9j09Lmz0




…ん?いつの間にか寝てたか。

っておい!?
千反田!?な、何で俺に寄りかかって寝てるんだ!?

え、ええと、、、、、、
な、何だこの状況!?
動くと千反田を起こしてしまうし…


ええと、ええと…。


101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:55:07.88 ID:k9j09Lmz0

はっ!
あれ?ここは…
あ、そうでした。部室です。部室で寝てしまったんですね。
…!えっ
私、いつの間にか折木さんに寄りかかってしまってました。
ああ、ごめんなさい折木さん。

…でも折木さんはまだ寝てますね。
ああよかった。

…さっきも思いましたが、やっぱり寝てる折木さんはとても幼い表情で…かわいいです。もっと間近で見たいです。

…折木さん、寝てますよね?
もうちょっと、近づいても大丈夫でしょうか?


104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:57:01.11 ID:k9j09Lmz0






千反田、起きたのはいいが、なんで俺の顔を覗き込んでるんだ!?

ち、ちたんだ!!!近いっ!
正直言って俺はもう顔から火が出そうなんだが…!!!


107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 18:58:53.35 ID:k9j09Lmz0



…むー。

折木さんの寝顔、写真に収めたいです。

…っ、いけません!いけません!

…いけないのはわかってますが…写真、欲しいです…

むー。

目に、焼き付けておきます。

じーーーーーー。


109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:00:25.09 ID:k9j09Lmz0

そこで、扉を開け放って闖入者現る。



里志「やぁ!皆居るかい?」


千反田「えっ」

里志「あっ」

折木「あ…」


千反田が、里志を見て…次に俺を見て…この世の終わりみたいな顔をした。

千反田「え…あっ…お、折木さん起きてたんですか!?あ、あの…ご、ごめんなさい…っ」

千反田が真っ赤になる。
だが、負けず劣らず俺も動揺していたと思う。ああ、もう。こいつといるとペースを乱されっぱなしだ。


110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:02:19.99 ID:k9j09Lmz0

里志「失礼しました」
里志が扉を閉めようとする。

ていうか閉めやがった。
ご丁寧に鍵まで掛けて。


しーーーーん。


おい。どうしてくれるんだこの微妙な空気。


しかも廊下を駆けていく音がする。おい。鍵掛けたまま走り去るな。この部屋は内側からは鍵を開けられないのに。

千反田がこちらに向き直る。

千反田「起きてたのに寝てるフリしてたんですか…っ」


112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:03:31.97 ID:k9j09Lmz0

折木「…すまん。言い出せなかった」

千反田「うぅ…恥ずかしいです。ごめんなさい…。折木さんの寝顔が見たくて、ついつい覗き込んでしまいました…」

折木「寝顔!?」

千反田「寝てる時の折木さんの顔はちょっと幼く見えたので。…私は昔の折木さんを知りませんので…ちょっと気になってしまいました」

折木「…俺も、気になるな。どんな感じだったんだ?昔の千反田は」

千反田「私、ですか?」

折木「ああ」


115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:05:30.86 ID:k9j09Lmz0

千反田は、一瞬考えるようなそぶりをして…そして微笑んだ。

千反田「じゃあ、順番です。お互いに、教え合うというのはどうでしょう?」

折木「そうするか」

千反田「」

折木「どうした」

千反田「いえ…その…」

心なしか千反田の顔が赤い。

折木「体調でも悪いのか」

千反田「いえ…そうではなくて…今、折木さんが…とても優しい表情をなさっていたので。ちょっと、驚いてしまいました。」


116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:06:44.69 ID:k9j09Lmz0

千反田の様子を見るに、驚いた様子には見えない。
…そんなに見るに耐えない表情だったのだろうか。
一応謝っておくか。
折木「悪かったな」

千反田「いえ、いえあのそんな!むしろいつもその表情でいてください」

折木「はぁ?」

千反田「あっ、でも秘密にしておきたい気もします…ああ、、どうしましょう。これは困りました」

言いつつますます赤くなる。

何だこの可愛い生き物は。


119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:07:53.71 ID:k9j09Lmz0

ああ、こんな時間も随分久しぶりに思える。

そういえば、里志はどこへ行ったのだろうか。相当な勢いで駆けて行ったが…。

もう暫く、こうしていたい気もする。心の底で里志に感謝する。




…と。
部室の外から声が聞こえる。

「あれ?ふくちゃん、何してるのそんな所で」
「あー!!し、静かに!今いい所なんだから!!」


120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:09:42.46 ID:k9j09Lmz0

…おい。
どこかへ行ったんじゃなかったのかよ。
前言撤回。俺は執拗に里志のつま先を踏みつけてやりたい衝動に駆られた。


ガラガラ

扉を開けて伊原と里志が入ってくる。古典部員全員集合。



摩耶花「…どういう状況?」

里志は盗み聞きに失敗し、悲しげな表情をしている。
千反田はどういう訳か顔が真っ赤。
俺は…どんな顔をしていたのだろうか。自分では分からなかった。



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:12:14.73 ID:k9j09Lmz0

伊原は続ける。


摩耶花「ちーちゃん、何で顔赤いの?折木に何かされた?」

折木「何でそうなる」

摩耶花「あんたも顔赤いから」


…えっ。

自覚症状が無かった。



里志「あーあ…いい所だったのに」

里志がぼそりと言う。


122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:13:11.05 ID:k9j09Lmz0

千反田「私、確かに福部さんが走り去る音を聞いたのですが…」

折木「俺も聞いた」

千反田「いつの間に戻ってきてたんでしょう…私、気になります」

里志「そりゃ2人が会話に夢中になってる間に決まってるじゃないか。」

…。気づかなかった。




里志「まぁ何はともあれ部員全員集合という事で。部活でも始めようか。」

摩耶花「特にする事も無いけどね」

それを言うか。


123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:14:07.88 ID:k9j09Lmz0


千反田が何か言いたげな目でこちらを見ている。

何だ?

俺が千反田に向き直ると、そっと耳打ちされた。
ほんの、小さな声で。
耳に吐息がかかる。何だか落ち着かない。


千反田「今度改めて、聞かせて下さいね。折木さんの子供の頃の話を。」

…こちらこそ。
2人きりの時にでも。



end


131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:19:49.96 ID:k9j09Lmz0

後日談終わりです

ほんとありがとうございました


125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:16:52.58 ID:vS97B3F40

爆発しろ乙


130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/07/30(月) 19:19:22.29 ID:oOT9wkW30

にやにやした、乙


133: 忍法帖【Lv=4,xxxP】 2012/07/30(月) 19:25:42.83 ID:4cyElmqq0

素晴らしい


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